小説『不審者(伊岡瞬)』を読んだ感想をレビュー

小説『不審者(伊岡瞬)』を読んだ感想をレビュー

2025年2月20日

あらすじ

家族4人で平穏に暮らす里佳子の前に突然現れた1人の客。

夫の秀嗣が招いたその人物は、20年以上音信不通だった秀嗣の兄・優平だと名乗る。

しかし姑は「息子はこんな顔じゃない」と主張。

不信感を抱く里佳子だったが、優平は居候することに。

その日から不可解な出来事が続き・・・。

家庭を侵食する、この男は誰なのか。一つの悲劇をきっかけに、すべての景色が一転する。

緊迫のサスペンス&ミステリ。

 

登場人物

折尾 里佳子(おりお りかこ)・・・本作の主人公。自宅で校正、校閲の仕事を請け負っている。高校時代に「リトル」と呼ばれていた小心で慎重な性格の持ち主。ママ友や姑との関係性に少し不満を抱いているが、今の平和な生活に満足している。

折尾 秀嗣(おりお しゅうじ)・・・里佳子の夫。中堅の食品メーカー「ヤナハル食品」に勤めている。里佳子とは反対に楽観的な性格。

片柳 優平(かたやなぎ ゆうへい)・・・秀嗣の兄。21年前、両親の離婚によって離れて暮らすことになる。

折尾 治子(おりお はるこ)・・・秀嗣、優平の母。里佳子&秀嗣夫婦と同居している。少し認知症の傾向が見られる。

折尾 洸太(おりお こうた)・・・里佳子の息子。

 

■ 本作の魅力(※ネタバレ注意)

心理描写

本作の魅力の一つは、登場人物たちの心理描写の巧みさにある。

里佳子は起こる出来事になるべく冷静さを保とうと努めるが、家族を守るためという心情から次第に追い詰められていく。

秀嗣は兄の突然の帰還に戸惑いながらも家族として受け入れようとしますが、その判断が家族に影を落とす。

優平は表面上は礼儀正しいもののどこか不気味な雰囲気を漂わせ、読者に不安を与える。

また、義母の治子は認知症の兆候が見られるものの、優平に対して強い拒否反応を示す。彼女の言動が真実を示しているのか、それとも認知症の影響なのか読者が判断に迷う。

各登場人物がそれぞれの思う「家族」を守ろうと奔走するが、不和が生じ、追い詰められていく描写が物語の大きなキーポイント。


物語の構成と展開

『不審者』は日常の中に潜む違和感を丁寧に描き出し、読者の不安を徐々に高めていく。

物語の前半では、些細な出来事が積み重なり、里佳子の不安が増していき中盤から後半にかけては、これらの出来事の真相が明らかになり、物語は一気に緊迫感を増していく。

特に終盤では、これまでの伏線が回収され、読者は驚きと共に物語の全貌を知ることになる。

この構成により、最後まで緊張感を持って物語を読み進めることができる。


テーマとメッセージ

本作で描かれている「家族とは何か」「信頼とは何か」といったテーマは日常にありふれている。

ただ、家族の中に突然現れた「不審者」によって、家族の絆や信頼が試され、日常の中に潜む違和感や不安が、どのように人々の心理に影響を与えるのかが描かれており、読者に深い問いを投げかける。

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